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中高生鮎友釣り選手権台湾選手バックストーリー#01 『偶然の出逢い』

中高生鮎鮎友釣り選手権.8
開催から一ヶ月が経過しました。
昨年以上の規模で行われた今年の選手権は、1,500名の来場者(会場配布のうちわから算出)と、郡上ケーブルテレビさんのご協力によって、盛大に開催することができました。
スポンサード、協賛をいただいた皆さま、ご協力いただいた各種団体さま、企業さま、ボランティアスタッフの皆さま。
そして何より、ご来場いただいた皆さま。
皆さまのおかげで、こうして今年も開催することができました。本当にありがとうございました。

YouTubeに当日のアーカイブがありますので、お時間のあるときにぜひご覧ください。

www.youtube.com

色々なことがあった今年の選手権で、僕個人の思い入れが特に大きかったのは、やはり台湾人選手の招待です。
当初、関係者からは『ほぼ不可能』といわれていた今回の招待。最終的に3名の選手が日本で戦うこととなりました。
実はそれぞれの選手に、それぞれのストーリーがありました。

あの日あの時、それぞれにどんな想いがあったのか。何が起こっていたのか。

 

そんな3名のバックストーリーについて、これからご紹介していこうと思います。

 

 

偶然の出会い

最初の選手は『林立恆』選手。愛称は林くん。



彼との出逢いは、まさに偶然でした。


選手権開催の2ヶ月前、台湾の関係者から「選手として候補が2名見つかりそうです」との連絡がありました。
当初はこの2名のどちらか1名を選手として選考し、選手権へ招待する予定でした。
実はこの時点で、林くんは候補ですらありませんでした。名前すら知りませんでした。
その日は候補生との面談前に、イーラン県にある人文中学校という学校を訪問することになっており、そこで郡上鮎の会の説明会をすることになっていました。

人文中学校は、『学生のやりたいことを伸ばす』ことを校訓としています。郡上鮎の会に近いコンセプトの学校です。台湾でも特殊な学校だそうです。
そんな特殊が学校に、なぜお子さんを入学させたのかが気になり、説明会で保護者に質問をしました。


「自身が学歴社会で大変な思いをしたので、子供にはそうさせたくない。」
「これからの時代は、教えられた事を記憶するよりも、自分で考える力が必要だから。」


さまざまな理由で入学させており、そのどれもが真っ当な理由でした。
その保護者の中に、「息子は勉強が嫌いで前の学校を不登校になり、自由な校則の人文中学校に転校することにした。今は少しずつ登校するようになり、週に2度登校できるようになった。」という保護者がいました。
そして続けて「実はその息子は、釣りが大好きなんです。」そう話しました。
僕はそれが妙に気になり、「今日息子さんは学校にいますか?」と尋ねると、「たまたまいます。」とのこと。
早速彼を校長室に呼びました。

現れた子は

しばらくして、一人の男の子が校長室にやってきました。第一印象は「内気な子」でした。彼が林くんでした。
緊張した様子で椅子に座り、自己紹介を軽く済ませてから、僕は彼にこう質問しました。
「釣り好き?」
「はい、大好きです。」
「日本は好き?」
「とても大好きです。」
「日本の何が好き?」
「アニメが好きです。」
「どんなアニメ?」
「呪術廻戦が好きです。」

「じゃあ、日本に来る?」


その瞬間、職員室にいた校長や保護者全員が「え!?」と反応しました。
当然林くんも驚いた様子。
しばらくして、「とても嬉しいですが、突然のことなので一度考えてからの返事でもいいですか?」と、彼の母親がそう話しました。
しかし僕は「今、ココで決めよう。後で考えても同じだから。」そう林くんに話しました。
つづけて「今きっと君の頭の中は、期待よりも不安の方が遥かに大きいと思う。こんな事を急に言われて戸惑うのもわかる。誰だってそう。だから質問を変えるね。『やりたいか、やりたくないか。』コレで決めていい。あとは全部責任を持つから。」
彼は少し考えたあと、「やります。」と答えました。
「じゃあ、やろうか。」そして握手をしました。
こうして想定外の出逢いから、一人目の選手が決定となりました。

やってみなきゃわからない

その日の帰り道、人文中学校の担任から連絡がありました。

「林くんはまだ人文中学校に来て間もなく、私も彼の性格をまだ理解できていません。感情の波もあると思います。日本に行ってから健さんに迷惑をかけないか心配です。」という話をされました。
そこで僕はこう答えました。
「波があってムラがある。良いじゃないですか、それが若さです。何が起こるかわからないから若者は楽しい。迷惑だってたくさんかければいいし、失敗したらそれでいい。それも含めて全部責任を取りますから、安心して預けてください。」そう話しました。

期せずして最初の選手として決まった林くん。

ラクティスから積極的に学ぼうとする姿勢や、できなくても諦めずに何度でもトライする勇気と根性。たった一ヶ月の間に、見違えるような顔つきになってきました。

そして日本での活躍はご存知のように、、選手権当日は決勝戦に出場するまでに成長しました。

YouTube Liveでは「台湾加油!(台湾がんばれ!)」というコメントで溢れていました。

まさかあの時、たまたま出逢った少年がこんな舞台に立つことなど、誰が予想したでしょうか。

なにより、出会った時あれだけ頼りなかった彼が、自ら率先して行動をするようになり、積極的に運営の実行委員と関わろうとする姿。心の成長に驚かされました。

最終日の告白

最終日の夕食後、あらためて出逢った時からのことを話してくれました。

「僕がはじめて健さんに出逢った時、健さんは交換条件など一切なく、『やるか、やらないか』というシンプルな話だけをしてくれた。それが僕にとってもの凄く衝撃的だったし、何も提示せず僕を誘ってくれたことに勇気が出ました。自分が何かをする時に、リスクを考えるのではなく、まず挑戦してみることの大切さを学びました。そして、人に感謝することの大切さを学びました。本当にありがとうございました。」

そう僕に感謝の言葉を述べてくれました。
郡上鮎の会が掲げる中高生鮎鮎友釣り選手権の目的は、鮎釣りを通じて選手が輝ける舞台を作ること。
そこにもう一つ、僕個人が願うこと『心の成長』があります。
それは今回の林くんだけではなく、実行委員の学生にもそうあってほしいと思っています。
実行委員の顔つきが、その日の朝と夕方でまったく違う顔つきになっている。僕はそれを毎年目撃することが密かな楽しみです。


毎年この日を迎えるために、たくさんの壁があります。規模が大きくなっていくにつれて、それはどんどん大きくなっていると感じます。
しかし、だからこそ挑戦しがいがあると思っていますし、僕が挑戦しつづける姿が、若者たちにとって何かプラスになってくれたら、それだけで十分です。

ちなみに最終日に観光を兼ねて名古屋に連れていった時のこと。
家電量販店で目を輝かせて商品を物色し、電化製品について異常に詳しいことが判明。
メンバーから電気屋の店長』という称号を授かっていました。

近いうちに人文中学校へは再訪する予定なので、また大きくなった彼と会える日を楽しみにしています。

 

#02は『トラウマを乗り越えて』です。